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疫学(新生児・乳幼児)
下気道感染症により入院加療した2歳未満患児の27%でRSウイルスが検出されました
  • 下気道感染症により入院加療した2歳未満患児の27%でRSウイルスが検出されました。また、入院時に呼吸不全に陥り、人工呼吸管理を必要とした重症患児20例のうち、9例はRSウイルスが検出された患児でした。

※内訳:RSウイルス単独検出:8例、RSウイルス+エンテロウイルスの複数検出:1例

[対象・方法]2007年4月から2012年3月の期間にて、東京女子医科大学八千代医療センターに下気道感染症により入院加療をした2歳未満児721例を対象に、鼻咽腔ぬぐい液から核酸を抽出し(RT-)PCR法により呼吸器ウイルスの検出を行った。RSウイルス、エンテロ属のウイルス(以下エンテロウイルス)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、ヒトボカウイルス(HBoV)、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスを検討した。

(本研究の限界)陽性であったウイルスの病原性について検討していないこと、ウイルス以外の感染症との合併率については正確に言及できないこと、本研究の対象は入院児であり、比較的重症者と考えられること、また、単施設の研究であるため、一般市中の感染症頻度を必ずしも反映していない可能性があります。

1)浜田洋通 他: 感染症学雑誌 88(4): 423, 2014

RSウイルス感染症で入院した2歳未満の患者の約90%は、RSウイルス感染による重症化のリスク因子※1を有していませんでした。また、入院患者のうち、生後6ヵ月未満の患者の割合は41%(1,848/4,556例)※2でした

※1:早産児、気管支肺異形成症、ダウン症候群、先天性心疾患、免疫不全症候群
※2:「41%」は2017年~2018年に入院した2歳未満の患者のうち、生後6ヵ月未満の患者の割合である。

  • RSウイルス感染症で入院した2歳未満の患者の約90%は、RSウイルス感染による重症化のリスク因子を有していませんでした。
    このことから、リスク因子の有無によらず、RSウイルス感染が2歳未満の患者に重篤な疾患を引き起こす可能性があると考えられます。
  • 入院した2歳未満の患者のうち、生後6カ月未満の患者の割合は41%、また、入院のピークは生後2カ月でした。

[対象・方法]日本医療データセンターのデータベースに登録されていた2歳未満の患者のうち、2017年1月1日から2018年12月31日までの期間において、RSウイルス感染症と診断された患者を後ろ向きに評価した。

(本研究の限界)RSウイルス感染症はICD10コードに基づいており、試験で確認されたRSウイルス陽性ではないため注意が必要であること、本研究で用いたデータベースは、中~大規模企業の従業員とその家族のみを含み、小規模企業の従業員と公務員は含んでいないため、RSウイルス負荷の過小評価を示す可能性があること、入院日からの入院日数も研究期間の終了時に切り捨てられており、これはいくつかの症例で平均入院期間を過小評価した可能性があるため注意が必要です。

Kobayashi Y et al.: Pediatr Int 64(1): e14957, 2022(本文献の著者4人はいずれもファイザー株式会社の社員である)

入院時に人工呼吸器を装着した患者の50%(84例/168)は生後6ヵ月未満の患者でした
  • RSウイルス感染症で入院した2歳未満の患者のうち、生後6カ月未満の患者の割合は41%でした。
    入院時に人工呼吸器を装着した全患者に占める、6カ月未満の患者の割合は約50%でした。

※「41%」は2017年~2018年に入院した2歳未満の患者のうち、生後6カ月未満の患者の割合である。

[対象・方法]日本医療データセンターのデータベースに登録されていた2歳未満の患者のうち、2017年1月1日から2018年12月31日までの期間において、RSウイルス感染症と診断された患者を後ろ向きに評価した。

(本研究の限界)RSウイルス感染症はICD10コードに基づいており、試験で確認されたRSウイルス陽性ではないため注意が必要であること、本研究で用いたデータベースは、中~大規模企業の従業員とその家族のみを含み、小規模企業の従業員と公務員は含んでいないため、RSウイルス負荷の過小評価を示す可能性があること、入院日からの入院日数も研究期間の終了時に切り捨てられており、これはいくつかの症例で平均入院期間を過小評価した可能性があるため注意が必要です。

Kobayashi Y et al.: Pediatr Int 64(1): e14957, 2022より作図(本文献の著者4人はいずれもファイザー株式会社の社員である)

重症なRSウイルス感染症患者の一部では、転帰が不良であったと報告されています
  • 気管挿管後人工呼吸管理を必要とした、または医療機関到着時に心肺停止状態であった重症のRSウイルス感染症患者25例のうち、詳細なデータがなかった4例を除いた21例の転帰として、死亡が4例(19.0%)、後遺症が2例(9.5%)にみられたと報告されています。

[対象・方法]2003年から2007年の期間において、京都府内の小児病棟を有する医療機関における重症のRSウイルス感染症患者数と転帰について調査した。上記期間にRSウイルス感染症で入院した患者数は736例であった。重症のRSウイルス患者数は25例であり、そのうち、詳細なデータのあった21例を対象に後ろ向きに集計した。

Ito H et al.: Pediatr Int 52(2): 273, 2010より作表

RSウイルス感染症による小児入院患者の57.2%が1歳未満で、1歳未満の患者の平均入院費用は約42万円でした
  • RSウイルス感染症による5歳までの入院患者を年齢別にみたところ、1歳未満が57.2%を占めていました。
  • 平均入院費用は、1歳以上では約29万円であったのに対し、1歳未満では約42万円でした。

[対象・方法]日本において、RSウイルス感染症による入院に関する総医療費に影響を与える因子について検討する目的で、メディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV)の国内病院請求データを用いて解析を行った。2014年4月1日~2015年3月31日の間に入院し、RSウイルスの診断と関連した入院請求が1件以上確認され、かつ少なくとも1泊の入院が確認された5歳までの患者6,811例について、ベースラインにおける患者背景、医療資源の利用、入院期間、総医療費について記述的分析を行った。さらに、structural equation modeling(SEM)アプローチを用いて入院費用に関連する因子を検討した。なお、1歳未満、1歳、2歳、3~5歳の年齢群についてサブグループ解析を行った。

[調査の限界]1年間のデータベースに基づいているため、治療ガイドラインの改訂に伴う変化をとらえることができなかった。また、データベースに起因する制限により、入院費用に関連する可能性があるが得られなかった情報がある。さらに、DPC制度により、医療費を最も多く請求できる診断名を主傷病名として選択していた可能性があり、また医療費をより請求するために併存疾患を選択していた可能性がある。

Sruamsiri R et al.: Medicine (Baltimore) 97(29): e11491, 2018より作図
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

RSウイルス感染症によるICU入院患者は1歳未満で1.2%でした。また、入院費用は約54万円高くなりました
  • RSウイルス感染症によりICUに入院すると入院費用は入院1回あたり約54万円、緊急入院では約2万円高くなりました。
  • ICUに入院した患者の割合は、1歳未満で1.2%、1歳で0.4%、2歳で0.3%、3~5歳で0.7%でした。

[対象・方法]日本において、RSウイルス感染症による入院に関する総医療費に影響を与える因子について検討する目的で、メディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV)の国内病院請求データを用いて解析を行った。2014年4月1日~2015年3月31日の間に入院し、RSウイルスの診断と関連した入院請求が1件以上確認され、かつ少なくとも1泊の入院が確認された5歳までの患者6811例について、ベースラインにおける患者背景、医療資源の利用、入院期間、総医療費について記述的分析を行った。さらに、SEMアプローチを用いて入院費用に関連する因子を検討した。なお、1歳未満、1歳、2歳、3~5歳の年齢群についてサブグループ解析を行った。

[調査の限界]1年間のデータベースに基づいているため、治療ガイドラインの改訂に伴う変化をとらえることができなかった。また、データベースに起因する制限により、入院費用に関連する可能性があるが得られなかった情報がある。さらに、DPC制度により、医療費を最も多く請求できる診断名を主傷病名として選択していた可能性があり、また医療費をより請求するために併存疾患を選択していた可能性がある。

Sruamsiri R et al.: Medicine (Baltimore) 97(29): e11491, 2018より作図
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

RSウイルス感染症の流行のピークは、COVID-19流行前の2018年・2019年では8-9月にかけて観察され、COVID-19流行後の2021年・2022年では6-7月にかけて観察されました

感染症発生動向調査・小児科定点: 2022年1月19日時点の報告数

国立感染症研究所: 感染症発生動向調査 週報(IDWR) 過去10年間との比較グラフ(週報グラフ)
(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html)(2023年10月8日時点)

国内におけるRSウイルス感染症の定点あたり報告数のピーク時期や報告数には地域で差がみられます
  • RSウイルス感染症の流行のピークは、主に沖縄県からはじまり、その後にその他で流行のピークがみられています。
    北部の地域ほど流行のピークが遅くなる傾向がみられています。

国立感染症研究所: 微生物検出情報 43(4): 79, 2022

RSウイルスワクチンは、開発優先度の高いワクチンの一つとして、厚生労働省から開発要請されていたワクチンの一つです

内閣官房 健康・医療戦略室: 第7回医薬品開発協議会 資料1-2, p16, 2022
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/iyakuhin/dai7/siryou1-2.pdf, 2024年1月確認)

日本で利用可能な医療情報データベースの特徴

日本薬剤疫学会データベースタスクフォースの取り組み

  • 2010年より毎年、臨床試験や医薬品の安全性・有効性研究に利用可能なデータベースの調査を開始した
  • 今回の調査では、学術、行政、産業界に属する主要なデータベースのうち、第三者がアクセス可能な20のデータベースに対してアンケート(データベース提供者の組織、データソース、登録者数、年齢分布、使用コード、平均追跡期間などの特徴を質問)を実施した
  • その結果、病院基盤のデータベース8件、保険者基盤のデータベース6件、薬局基盤のデータベース4件、その他のデータベース2件から回答を得た
  • そのうち17のデータベースは、医療レセプト、薬局レセプト、又はDPCデータからの情報を含んでいた

病院基盤・保険者基盤・薬局基盤のデータベースの特徴

  • 保険者基盤のデータベースの多くには、健康診断データが含まれていた
  • また、このデータベースでは現役世代の被雇用者の保険者からデータを収集していたため、高齢者の対象は限られていた
  • 病院基盤のデータベースの中には、電子カルテからのデータを含むものがあった
  • ほとんどのデータベースでは、日本の診療報酬コードを用いて処方データをコード化し、多くはATCコード(解剖治療化学分類)を提供していた
  • これらの結果より、日本において臨床および薬剤疫学研究に利用可能なデータベースの数と、それらがカバーする人口の割合は増加しつつあり、研究目的に応じて、それぞれ適切なデータベースを選択する必要があることがわかった

Kumamaru H, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2023. doi: 10.1002/pds.5680. Online ahead of print

データベースの種類別の年齢分布(%)の範囲 (最小値-最大値)*

Scroll left to view table
年齢(歳) 日本における
年齢分布1(%)
医療機関基盤の
データベース 
N = 6)(%)
保険者基盤のデータベース 薬局基盤の
データベース 
N = 3)(%)
後期高齢者なし
N = 3)(%)
後期高齢者あり2
N = 2)(%)
0-14 12 7-14 17-22 7-19 9-15
15-64 60 38-55 76-79 58-59 48-57
65-74 14 13-25 2-4 17-19 14-18
≥75 14 19-30 0 6-15 15-21
年齢分布を開示していないデータベースは範囲算出から除外した。2021年1月の住民基本台帳に基づく。後期高齢者医療制度(75歳以上)をもとに分類した。

Kumamaru H, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2023. doi: 10.1002/pds.5680. Online ahead of print.より転載

追跡調査した患者数および追跡期間の中央値*

Scroll left to view table
  医療機関基盤のデータベース 保険者基盤のデータベース 薬局基盤のデータベース
RWD MDV JMDC Cross
Fact
JammNet MDV DeSC Cross
Fact
日本調剤
データベースに
おける特徴的な
患者ID数(万人)
2300 3669 1200 707 216 687 200 2799 1760
1年以上追跡した
患者数(万人)
366
(15.9%)
1504
(41.0%)
1024(85.3%) 588(83.2%) 107(49.5%) 515(75.0%) 165(82.5%) 543
(19.4%)
130
(7.4%)
3年以上追跡した
患者数(万人)
258
(11.2%)
882
(24.0%)
610(50.8%) 326(46.1%) 79(36.6%) 341(49.6%) 90
(45.0%)
361
(12.9%)
88 
(5.0%)
5年以上追跡した
患者数(万人)
188
(8.2%)
472
(12.9%)
346(28.8%) 190(26.9%) 59(27.3%) 228
(33.2%)
60
(30.0%)
191
(6.8%)
60 
(3.4%)
追跡期間の中央値
(年)
1.9 1.8 - 2.3 3.8 3.5 2.5 2.1 4

*ここで挙げられていないデータベースでは、患者の追跡調査に関する情報は報告されていない。

Kumamaru H, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2023. doi: 10.1002/pds.5680. Online ahead of print.より転載

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医療機関基盤のデータベース
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